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盛岡地方裁判所 昭和35年(わ)223号 判決

被告人 関根一男

大一三・八・三〇生 医師

主文

被告人を懲役一年および罰金五万円に処する。

二年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは、金千円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は、被告人の負担とする。

理由

(罪となる事実)

被告人は

第一、麻薬診療施設の開設者でなく、かつ、法定の除外事由がないのに、別表記載のとおり、昭和三五年一月二三日から同年三月二四日までの間、前後一五回にわたり、宮古市宮古一二地割字向町六の五・合資会社健康堂薬局および同市宮古一七地割字新町一三番地・合資会社熊谷商店から、麻薬である燐酸コデイン末(合計三〇〇グラム)およびオピアト注射液(合計一CC入アンプル一二〇本)を譲り受け

第二、麻薬施用者でなく、かつ、法定の除外事由がないのに、常習として、昭和三五年一月一日から同年三月二七日までの間、連日にわたり、宮古市宮古五地割字八幡沖七の自宅において、麻薬であるオピアト注射液を一日約〇・五CCないし一・五CCづつ合計約一〇〇CCを自己の体内に注射して施用し

たものである。

(証拠)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為中、判示第一の各所為は、麻薬取締法六五条一項、二六条一項に、判示第二の所為は、同法六七条一項、六五条一項、二七条一項に、それぞれ該当するが、以上は、刑法四五条前段の併合罪の関係にあるから、判示第一の各罪については、所定刑中、罰金刑を選んだうえ、同法四八条を適用して、所定刑期範囲内および罰金の合算額の範囲内で、被告人を懲役一年および罰金五万円に処し、懲役刑については、同法二五条一項により、二年間、刑の執行を猶予し、被告人が右罰金を完納することができないときは、同法一八条を適用して、金千円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置し、訴訟費用については、刑訴法一八一条一項本文により、被告人に負担させることとする。

(弁護人の主張についての判断)

弁護人は、判示第一の各犯行当時、被告人は、麻薬施用者の免許を有するものと信じていたもので、免許なくして麻薬を譲り受けるという認識がなかつたものであるから、故意犯は成立しない旨主張するが、前掲各証拠を綜合すると、被告人は、昭和三四年度の麻薬施用者として、岩手県知事より、麻薬取締法三条の免許を受けていたものであるところ、昭和三四年八月頃、住居を変更したため免許証の記載事項の変更届をなし、書き替えた免許証の交付を受けたが、該免許証の効力は、交付を受けてから一年間存続するものと誤解し、判示第一の各麻薬を譲り受けていたことが認められる。しかして被告人において書き替えた免許証にかかる効力ありと信じたとすれば、取も直さず麻薬取締法第五条の免許の有効期間についての規定を誤解したものに外ならないのであつて、いわゆる事実の錯誤ではなくて法律の錯誤といわなければならない。しかして法律の錯誤は犯意の成立を阻却しないと解せられるから判示第一の各罪について、犯意がなかつたということはできない。右主張は採用し得ない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀬戸正二 大塚淳 真田順司)

(別表略)

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